介護の人手不足は本当か——「辞める人は減っているのに足りない」の正体
「介護は人手不足」。もう聞き飽きた言葉かもしれません。わたしは介護職の転職サポートの仕事をしていて、この言葉を前向きに受け取っていいのか、それとも避けるべきサインなのか、判断に迷う人によく出会います。人手不足という一語には、追い風と向かい風が両方詰まっている。ここでは公的な調査の数字を手がかりに、その中身を求職者の立場からほどきます。
「人手不足=みんな辞めるブラック業界」ではない
まず、いちばん広まっている読み違いを外します。「人手不足」と聞くと、次々に人が辞めていく職場を思い浮かべがちです。ところが直近のデータは逆を向いています。訪問介護員と介護職員を合わせた離職率は12.4%で、2年連続の低下。人が定着しないから足りない、という説明は、少なくとも今の全体像には当てはまりません。
では、なぜ足りないのか。高齢化で介護サービスの必要量そのものが増え続けているからです。辞める人が減っても、必要な人手がそれ以上のペースで増えれば、現場の実感としては「足りない」まま。人手不足の主役は大量離職ではなく、需要の増加に採用が追いつかないこと——ここを取り違えると、業界全体を十把ひとからげに「危ない」と誤解してしまいます。
数字で見る——不足感65.2%、でも離職率は下がっている
公益財団法人介護労働安定センターの令和6年度「介護労働実態調査」から、当事者である事業所の数字を並べます。求人倍率のような市場全体の指標ではなく、現場が実際に感じ、動いている値です。
| 指標(令和6年度) | 数値 |
|---|---|
| 従業員が「不足」とする事業所 | 65.2%(前年度64.7%) |
| 採用率(訪問介護員・介護職員) | 14.3%(3年ぶりの低下) |
| 離職率(訪問介護員・介護職員) | 12.4%(2年連続の低下) |
※介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査(事業所調査)」問7・問8より。採用率・離職率は令和5年10月1日時点の在籍者を分母とした1年間の割合。
出典:介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査(事業所調査)」問7・問8
この数字でいちばん見るべきは、65.2%の高さそのものより、離職率の低下と不足感の上昇が同時に起きている「ねじれ」だと思います。ふつう、人が辞めなくなれば不足感はやわらぐはず。それが逆に強まっているのは、現場が回復していないのではなく、求められる量の伸びに追いつけていないということ。求職者にとってこれは、需要が構造的に続く=仕事がなくなりにくい市場だと読めます。
この「足りなさ」は、市場の需給という別角度から見ると、求人倍率にも表れています。介護の有効求人倍率が全職業平均の約3.6倍という数字を求職者の立場でどう読むかは、別の記事で整理しています。事業所の実感(本記事)と市場の倍率(別記事)は、同じ不足を内側と外側から見たものだと考えてください。
ただし、「人手不足=あなたが有利」と単純化しない
追い風の面ばかり見ると足をすくわれるので、ここは正直に書きます。
最後に
介護の人手不足は、数字のうえでも本当です。不足とする事業所は65.2%にのぼります。けれど中身は「みんなが辞めるから」ではなく、「必要な人手が増え続けているから」。この違いがわかると、人手不足はただ怖がる対象でも、無条件の追い風でもなくなります。仕事がなくなりにくい市場で自分は選べる立場にいる、と落ち着いて受け止めたうえで、不足にどう向き合っている職場かを見極める。それが、この言葉との付き合い方だと思います。
・公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査(事業所調査結果報告書)」(令和7年7月公表)——従業員の過不足状況(問8:不足とする事業所 65.2%/前年度64.7%)、採用率・離職率の動向(問7:訪問介護員・介護職員2職種の採用率 14.3%/離職率 12.4%)、採用や職場定着の方策で効果があったもの(問11・12:採用は「賃金水準の向上」36.0%、定着は「休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」34.4%)
※本文中の数値は上記調査に基づく概況です。過不足感は事業所の回答に基づく全国平均であり、地域・サービス種別・職種により実態は異なります。最新の詳細は各公式資料をご確認ください。
同じ調査で、採用に効果があった方策の1位は「賃金水準の向上」(36.0%)、職場に定着してもらう方策の1位は「休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」(34.4%)でした。ここから、わたしが求職者にお伝えしているのは「人手不足そのものを避けようとしない」ということです。どこも足りない以上、無い職場を探すより、不足に対して具体的な手を打っている職場を選ぶほうが現実的だからです。面接で「募集の背景」を聞いたとき、増員なのか欠員の穴埋めなのか、そして賃金や休みの取りやすさにどう投資しているか——ここに、慢性的に足りない現場か、埋める気のある現場かの差が出ます。人手不足は避ける対象ではなく、職場を仕分けるものさしとして使うのが賢いんです。